< 懺 悔 >



今までは


思わず知らず過ごしけり 始めもあらぬ時よりぞ


 造れる罪のいかばかり 重なる咎のかずかずは


貪るこころや憤り いかなる心や愚痴よりぞ


 身より口より意より 造れるすべての罪咎を


仏のみまえにのべしきて 心の底より手を合わせ


 口に仏名となえてぞ 今やわれ等は懺悔する


こころのうちは清浄に 晴れて冴えたる月の如


 いたらぬ隈なく照らしつつ 身をも清めんもろともに


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 帰依三宝 >



ありがたや


 無始よりこの方われわれは 迷い迷いて真実の


 みのりの親を知らざりき 今ぞ遇いけるありがたや


ありがたや


 智慧の光は輝きて 慈悲の潤澤はうるおいて


 相好光明鮮麗けき 徳の主尊よありがたや


ありがたや


 十方三世に行きわたり あらゆる国土にみすがたを


 現わしたまいて衆生等を 済度ましますありがたや


ありがたや


 我等一切衆生等の 真実帰依処の諸仏等に


 われ等はひたすら帰命する あらありがたやありがたや


ありがたや


 日々夜々にあきらけく すすみゆく道は八の道


 正しき言葉に身も安く 心も安しありがたや


ありがたや


 正しき思いに生計も いとど正しく見ることも


 誤りなしに清浄に 業を修むるありがたや


ありがたや


 身にも口にも意にも 真実の業をおさめつつ


 正しく進み泰然と 定まる心ぞありがたや


ありがたや


 菩提の心を起しては 蓮花に含む実の如く


 華果円成この法に 我等はひたすら帰命する


ありがたや


 この世の浄土は和合より 建てらるものぞ和合衆


 男女もそれぞれに 四衆の集いのありがたや


ありがたや


 ビク(出家男子)ビクニ(出家女子)ウパーサカ(在家男子)や ウパーシカ(在家女子)衆とわかれても


 こころ一つに目的も 一つに向うありがたや


ありがたや


 和合の家に笑みの花 顔に匂いていおいける


 愛の言葉に茂りたる 涼しき樹蔭ありがたや


ありがたや


 各々まもる戒律に 受くる利益も同一に


 和合の実の家族団 平和の衆に帰命する


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 受持五戒 >


尊やな


慈悲の心に衆生等を 実子の如く平等に


 兄弟姉妹のなかなれば 互に害い殺すなよ


生命は各自の第一の 宝なりけりそを奪るな


 苦痛を思い殺すなの いましめ持つ我たもつ


尊やな


人の道すじ明らかに 盗まぬみ法を示されて


 ぬすみは貧苦の基にて ぬすみの宝はおのが身を


苦しむ毒ぞいたずらに 不義の宝に身を焼ける


 おろかの業をなすなよの 戒律たもつ我たもつ


尊やな


極楽浄土の花も実も 不義せぬ家庭に現われて


 和気靄々の雲の中に 子孫繁昌の徳見ゆる


不義邪淫の家庭には 不和煩悶や不良児に


 悩む常習ぞ邪淫を なすなの戒律我たもつ


尊やな


千万巧美の言よりも 一信言の徳重し


 信は万功の基にて 信なき人は進路閉ず


嘘言わぬより真実の 人格作る仮初の


 ことにも嘘を云うなよの 戒律持つ我たもつ


尊やな


醉わず汚れぬ心こそ 身も清浄に徳も積め


 三十六過の酒飲まぬ 教えのいともありがたや


頭脳を痛め子孫をも 害する悪魔の毒薬の


 酒も煙草も飲むなよの 戒律持つ我たもつ


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 発菩提心 >


牟尼よ牟尼


釈迦牟尼仏よいざさらば ただ今我は劫来の


 父母なりき衆生等の 苦患を見るに堪えざれば


いかにもなして衆生等の 諸苦の根本を断ち切りて


 無上の楽を与ふなる 菩提の心を我起す


牟尼よ牟尼


釈迦牟尼仏よ衆生等は 如来の徳相一切を


 本来具足荘厳す されども無明の雲深く


本来のひかり見えずして 苦患の闇夜に悩みける


 一切衆生のやみ晴らす 菩提の心を我起す


牟尼よ牟尼


釈迦牟尼仏よ菩提心 起す意は萬徳の


 仏陀を成ずる因と聞く その因心に徳ありて


衆生利益の功をなす いかなる難も恐れずに


 進んで徳積む真実の 菩提の心を我起す


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 入菩薩行 >


うるわしや


虚空に白蓮咲き匂う ヒマラヤ雪のみねみねは


 ふもとの苑やルンビニーの 無憂の花のさくもとに


天上天下独尊の 衆生自立の性の声


 虚空を破るするどさに 無明の夢は破れたる


うるわしや


辺際も限りもなき原の アリア野原の榕樹下に


 端然坐せるシッタルダ 草間に棲める蟲々の


互いに呑みつ喰らいつつ 争いくるしむいたづらを


 救う方便を思わるる 菩薩の行を我学ぶ


うるわしや


青蓮白蓮紅蓮の 咲きみだれたる池の辺に


 太子と共に貴公子は 花見がてらの弓あそび


提婆の放つ矢に落つる 雁を捕えしシッタルダ


 矢を抜き雁を放ちたる 慈悲の心に我学ぶ


うるわしや


花の顔色蓮の足 ありや貴族の妻択ぶ


 例に習わず位地種族 いかんを問わず妹子等の


徳や技芸のあるなしを 主として配を求めたる


 菩薩の妻娶る真実の 心の程を我学ぶ


うるわしや


ヒマラヤ山の長雨に ローヒニ河の水高く


 堤防破れて村里の 家はながさるその難を


救わんためにシッタルダ 自ら土木の工事して


 民の水難救わるる 菩薩の行を我学ぶ


うるわしや


カビラワスツの花の春 人は花にと酔い狂う


 中には太子は病人や 老人ながめて苦を偲び


死人を見ては生死海 浮沈の苦しみある毎に


 さめて衆生の苦を救う こころ起すに我学ぶ


うるわしや


卯月なかばのヒマラヤの 空を照せる月たかし


 太子おんとし二十九の 今こそ生死の絆繋断つ


時は来にけれいざさらば 菩提の道に生命をも


 惜しまずすすむ勇断の こころおこすに我学ぶ


うるわしや


ネーランジャナの河岸の 苦行林中六年の


 苦行に骨身は枯木なる 身の苦行より心行の


徳の中道修めよと 河に洗浴しスジャータの


 乳糜を受けし心身の 相応行を我学ぶ


うるわしや


菩薩のヒマラヤは 潤す布施や高潔の


 戒行しるくあらわれて 寒熱の苦をも厭わずに


猛獣の叫びも忍びつつ 徳に進みつ泰然と


 何にも動かず慧光にて 虚空てらすに我学ぶ


うるわしや


虚空せましと咲きほこる 妙白蓮のヒマラヤは


 宇宙宏壮の真荘厳 それにも勝さる本生の


六波羅密の実行に 示したまえるかずかずの


 徳荘厳や真美なる 菩薩の行を我学ぶ


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 観釈尊 >


うれしやな


今まで我等が知らざりき 信の親なる釈迦如来


 信のスイチを巡らせば ほとけの電光すぐそこに


輝きわれ等の暗夜破り あらゆる苦患を滅して


 無畏の安心与えらる 尊き心に帰入する。尊き心に帰入する。


うれしやな


今まで我等が遇わざりき 信解の親なる釈迦如来


 無限無量の宇宙には 至らぬ隈なき法の身に


無辺の徳を具えます 荘厳自性を現わせる


 妙応身なる釈迦牟尼に 我等はひたすら帰入する


うれしやな


今まで我等が遇わざりき 真の親なる釈迦如来


 法の宝や福徳の 蔵を開くべき信の鍵


もちて用いて内に入り 親の宝のかずかずを


 受けて用いて世の人に 施す心に帰入する。施す心に帰入する。


うれしやな


今まで我等は知らざりき 慈悲の親なる釈迦如来


 慈悲のかための五戒法 十善までも示されし


別々解脱の幸福は 何にたとえんみ仏の


 慈悲のこころの懐に 我等はひたすら帰入する。我等はひたすら帰入する。


うれしやな


今まで我等が忘れたる 温和の親なる釈迦如来


 あふえゆかしき何ごとも 怒りたまわずいたづらに


はずかしめるもせらるるも 同じ仏の子供ぞと


 愛のこころに忍べとの こころに我等は帰入する。こころに我等は帰入する。


うれしやな


今まで我等が遇わざりき 精進の親なる釈迦如来


 正しき法のためならば 二句のゆえすら身を捨つる


跡を示して我々の ふみゆく道を開かれて


 進みに勇むみ仏に 我等はぎたすら帰入する。我等はひたすら帰入する。


うれしやな


今まで我等が知らざりき 平和の親なる釈迦如来


 不動不乱の禅定に すみて坐りて金剛座


禅のちからで生死や 煩悩の悪魔を降してぞ


 暁のさとりに望まるる 心に我等は帰入する。心に我等は帰入する。


うれしやな


今まで我等が忘れたる 大慈の親なる釈迦如来


 一切衆生を我子ぞと 思い育てて法の花


妙のみ花や徳の実や み法の楽や天の舞


 寂光楽を与えらる 心に我等は帰入する。心に我等は帰入する。


うれしやな


今まで我等があはざりき 大悲の親なる釈迦如来


 母の一人子愛しむ如く われ等衆生を思われて


あらゆる苦患や煩悩を 元のもとより除くため


 苦行厭わずし給える 心に我等は帰入する。心に我等は帰入する。


うれしやな


今まで我等は知らざりき 大喜の親なる釈迦如来


 無上の法のたのしみや 無上覚悟のよろこびを


一切衆生の我等まで 斉しく与えて平等に


 法悦法喜を与えらる 心に我等は帰入する。心に我等は帰入する。


うれしやな


今まで我等は忘れたる 大捨の親なる釈迦如来


 愛と憎とこころより 遠く離れて依怙もなく


ひとしく照らす日の光 それにもまして奥深く


 心の闇夜をてらします 心に我等は帰入する。心に我等は帰入する。


   南無釈迦牟尼仏陀耶






< 報恩廻向 >


よろこべよ


敵と思いし世の人も 往しむかしはわれわれの


 親とならざる者ぞなき 縁を思い誰人も


親しき思いや喜びの こころで事えてみめぐみを


 無上の道にて報いなん あらゆる功徳を廻向する。あらゆる功徳を廻向する。


よろこべよ


ここの国土に住居して 安く過ごすは国王や


 国家の力によるなれば 自家のわざおばはげみつつ


徳を積みつつ国家に 尽くすのみかは世界にも


 広く尽くさん諸徳をば 無上菩提に廻向する。無上菩提に廻向する。


よろこべよ


世にある程の善なれば 如何に小さき事にても


 我等はなすに勉めつつ 他人のなしたる善事にも


心から喜び世のために 事の成れるを祝しつつ


 国や世界を浄土に 建立するに廻向する。建立するに廻向する。


   南無釈迦如来仏陀耶




(河口慧海)