< 仏陀の死 慧能の死 >
仏陀最後の言葉
仏陀は若きアーナンダに告げられた。・・・
「アーナンダよ。あるいは後にお前たちはこのように思うかもしれない、『教えを説かれた師は在さぬ(ましまさぬ)、もはやわれらの師はおられないのだ』と。しかしそのように見なしてはならない。お前たちのためにわたしが説いた教えとわたしの制した戒律とが、わたしの死後にお前たちの師となるのである。
また、修行僧たちよ。仏に関し、あるいは法に関し、あるいは集いに関し、あるいは道に関し、あるいは実践に関し、一人の修行僧に、疑い、疑惑が起こるかもしれない。修行僧たちよ。そのときには問いなさい。あとになって、わたしたちは師に目の当たりお目にかかっていた。それなのにわたしたちは仏陀に目の当たりおたずねすることができなかったと言って後悔することの無いように」と。
このように言われたときに、かの修行僧たちは黙っていた。
そこで仏陀は修行僧たちに告げられた。
「修行僧たちよ。お前たちは師を尊崇するが故にたずねないということがあるかもしれない。修行僧たちよ。仲間が仲間にたずねるようにたずねなさい。」
このように言われても、修行僧たちは黙っていた。
そこで若きアーナンダは仏陀にこのように言った。
「尊い方よ。不思議であります。珍しいことであります。わたくしは、この修行僧の集いをこのように喜んで信じています。仏に関し、あるいは法に関し、あるいは集いに関し、あるいは道に関し、あるいは実践に関し、一人の修行僧にも、疑い、疑惑が起っていません」
「アーナンダよ。お前は浄らかな信仰からそのように語る。ところが、修行完成者には、こういう智がある。『この修行僧の集いにおいては、仏に関し、あるいは法に関し、あるいは集いに関し、あるいは道に関し、あるいは実践に関して、一人の修行僧にも、疑い、疑惑が起っていない。この五百人の修行僧のうちの最後の修行僧でも、聖者の流れに入り、退堕しないはずのものであり、必ず正しいさとりに達する』と。」
そこで仏陀は修行僧たちに告げた。・・・
「さあ、修行僧たちよ。お前たちに告げよう、『もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成しなさい』と。」
これが修行をつづけて来た者の最後の言葉であった。
慧能最後の言葉
慧能は門人にいわれた。
「君たち、さようなら。もう君たちと別れよう。わたしの死んだあと、世俗の葬儀をしたり、人の弔問や供物を受けてはならん。喪服をきるのは仏陀の教えに反する。我が弟子でない。わたしの生前と同じように、揃って正坐しておれ。心に動静なく生滅なく、去来なく、是非なく、行住することなく、おちついて平静であるのが大道である。わたしが死んだあと、教えた通りに修行さえすれば、わたしの生前と同じことだ。わたしがもし生きていても、君たちが教えに反すれば、留まっても益はない」