< 空 の 空、無 の 無 >




「空の空である」とコヘレトが言う。


「空の空、いっさいが空である。

天が下で人間がいかに労しても、

その労苦が、およそ何の益になろう。

世は移り、世は来る、

しかし地は永遠に変わらない。

日は登り、日は沈み、

その所に急ぎ、そこからまた昇る。

風は南に吹き、北をめぐり、

めぐりめぐって、その道に帰る。

川はみな海に注ぐが、海はあふれない。

川はいつまでも河口に向かって流れる。

目でいくら見ても果てがなく、

耳でいくら聞いても尽きることがない。

かつてあったことは、またあろう。

かつてなされたことは、またなされよう。

天が下に、およそ新しいことはない。

『見よ、これは新しい』と人がいう物でも、

われらの生まれぬ前の昔からすでにあったのだ。

前の世の事は記憶されず、後の世の事も、

さらに後の世に記憶されることはない」





「人間の運命も野獣の運命も同じであって、これも死ぬしかれも死ぬ。

いずれも鼻で息をしており、人間が獣にまさるところなどありはしない。

げに、いっさいは空である。

すべてのものは一つ所に行く。

万物は土くれから成り、土くれに帰る。

だれが知ろう、人間の霊は上に昇り、獣の霊は地に下がるかどうかを」





「義人と知者はその行為とともに神の手にある。

神の愛も憎しみも人間は知りえない。

いかなる人にいかなる事が起こるかわからぬ。

すべての人に同じ運命が臨む、義人にも悪人にも、

善人にも、清浄な者にも、不浄な者にも、犠牲をささげる者にも、ささげぬ者にも。

善人も罪人も同様、誓いをする者も、誓いを避ける者も同様である。


要するに、同一の運命がすべての人に臨むということ、

これが天が下に行われる悪の根である。

じっさい、人間の心は悪に満ち、

生きているかぎり人々の心には狂気が潜んでいる。

そして、旅路の果ては冥途だ。


けれども、生きとし生けるものに親しむものには望みがある。

たしかに、「生ける犬は死せる獅子にまさる」のだから。

少なくとも、生きている者は自分が死ぬことを知っているが、

死人はなんにも知らず、なんの報いも得られない。

彼らの記憶さえ忘れられるようになる。

愛憎も嫉妬もすべて消えうせ、

彼らはもはや永久に、天が下に行われるすべてのことに何のかかわりもない。


さあ、朗らかにパンを食べ、心楽しく葡萄酒を飲むがよい。

神はとっくに、そのような振る舞いをお許しになったのだから。

いつでも清潔と歓喜の衣装を身につけ、頭には油を絶やさぬように。

天が下で許された空しい一生の間、

愛する女と楽しく暮らすがよい。

それが人生におけるおまえの分であり、

天が下で労したお前の労苦に対する報いなのだ。


何事でも、自分でやれることは力いっぱいやれ、

やがて行くべき黄泉では、行為も思慮も知恵も知識もないのだから」





「若い者よ、青春を楽しめ。

若き日に悔いを残すな。

したいことはし、見たいものは見よ。

ただし、これらいっさいの勘定は、

神から取られるものと知れ。


憂を心から去り、身から鬱を散ぜよ。

だが紅顔の青春も空である。


若き日にお前の造り主を憶えよ。

そのうち老境に入り、「おれにはもうなんの楽しみもない」

という日が近づくから」





コヘレトは知者であったばかりでなく、さらに知識を教えた。

そしてみずから試み、究め、多くの箴言をつくった。

コヘレトは巧みな言葉を見いだそうと努め、正直に真理の言葉を記した。


知者の言葉は突き棒に似ている。

また、語録の各節はよくきいた釘のようで、一人の牧者の作である。


わが子よ、これらにもまして注意せよ、多くの書物をあされば際限がなく、

多くの学問をすれば身体を疲れさせるだけだ。


要するに、これらすべてのことを聞き、神を畏れ、その戒めを守れ。

これがそもそも人の人たるゆえんである。

なぜなら、すべての行為は、しかり、善であれ悪であれ、

いかなる秘密も、神によって裁かれるからである。


by伝道の書






「心はいとも静かで、いろかたちが無い。


眼をすえても見えず、耳をかたむけても聞こえぬ。


暗いようで暗くはないし、明るいようで明るくもない。


捨てようとしても無くならぬし、取ろうとしても姿を見せぬ。


大きいとなると法界にゆきわたり、小さいとなると毛の端ほども姿を留めぬ。


迷いがかきみだしても濁らないし、寂滅の境におちついても、澄まぬ。


真なるものとして、もともと分別することなしに、


心あるものと心なきものをちゃんと処理する。


しまいこむと何も残らないし、散らばると一切の生きものにゆきわたる。


不可思議は知恵ではかれず、大覚は修行のみちをたちきる。


姿が消えても壊れたわけではないし、姿が現れてもできあがったわけでない。


大道はひっそりと、固有の形がなく、現実はとほうもなくて、名づけようがない。


かくも自由に運動するもの、これぞすべてが無心の精だ」


by無心論






菩提、本より樹無し、明鏡も亦た台無し。


仏性は常に清浄なり、何処にか塵埃有らん。




心は是れ菩提樹、身は明鏡の台為り。


明鏡は本より清浄なり、何処にか塵埃に染まん。


by慧能






「一切の形成されたものは無常である」(諸行無常)


人が智慧によりこのことを自覚する時


悲しみのこの世が気にかかることはない。


これが心を清める道である。




「一切の形成されたものは苦しみである」(一切皆苦)


人が智慧によりこのことを自覚する時


悲しみのこの世が気にかかることはない。


これが心を清める道である。




「一切の事物は我ならざるものである」(諸法非我)


人が智慧によりこのことを自覚する時


悲しみのこの世が気にかかることはない。


これが心を清める道である。


by仏陀






”空の空 無の無 清浄 清浄心”