< あなたは・・・ >


〜 ヨブ記 〜








わたしの魂は生きることを欲しない。

わたしはわが嘆きをつつまず表わし、わたしの魂の苦しきままに語ろう。

わたしはあなたに申そう、わたしを罪ありとしたもうな、何故わたしと争われるかを示したまえ。


あなたがそのみ手をもって造られたものを、不当に扱い、これを棄ててしまってよいのであろうか。

あなたは悪人の計画の上に光を与えられる。

あなたの眼は肉の眼なのか、あなたは人が見るように見られるのか。

あなたの日々は人の日々の如くであるのか、あなたの年は人間の日々の如くであるのか、あなたがわが咎を探し出し、わが罪を求められるのは。

あなたはわたしが罪なきことと、あなたの手から救い得る者なきを知りたもうたのに。

あなたの手がわたしを型どり作ったのに、あなたは思い直してわたしを滅ぼされるのか。

わたしを土くれのように作られたのを覚えたまえ。

それなのに塵に返そうとされるのか。

あなたはわたしを乳のように注ぎ出し、チーズのようにわたしを固まらせたではないか。

あなたはわたしに皮と肉とを着せ、骨と筋をもってわたしを編みあわせ、生命と慈しみをわたしに賜わり、あなたの加護によってわが霊を守られた。


あなたはこれらのことを心にかくしておかれた、このことがあなたの中にあったのをわたしは知る。

わたしがもし罪を犯せばあなたはわたしに眼を注ぎ、わたしの咎からわたしを放免されないだろう。

もしわたしに罪があれば、わたしは災いだ。

しかし義しくてもわたしは頭を上げられない。

わたしは恥に満たされ、悩みに満ちているからだ。

頭を上げれば、あなたは獅子のようにわたしを追い、再び不可思議な力をわたしに加えられるだろう。

あなたは攻撃を新たにしてわたしを攻め、あなたの怒りをわたしに増し加え、新たな軍勢をわたしに加えたもうだろう。


何故あなたはわたしを胎から出されたのか、その時息たえれば、誰もわたしを見なかったろうに。

わたしはいなかったようになり、母の胎から墓へと運ばれていただろうに。

わたしの世にある日はもうわずかしかないではないか。

わたしを離れ、せめて一息つかせてください。

わたしが暗きと闇の国へと、赴いて再び帰らぬようになる前に、全き暗闇の国、秩序なく、光すら闇のような国へと。






ただ二つのことをわたしにしないでください。

そうすればわたしはみ前から、隠れることはないでしょう。

あなたの掌をわたしから遠ざけてください。

あなたの畏れでわたしを畏怖させないでください。

あなたが呼んでください、わたしは答えましょう。

あるいはわたしが語り、あなたが返事をしてください。


わたしの咎と罪とはどの位あるのか、わたしの不義と罪をわたしに知らせてください。

何故あなたはみ顔を隠し、わたしをあなたの敵とみなされるのか。

あなたは風に舞い散る落ち葉をおどし、乾いたもみ殻のようなわたしを追跡されるのか。

あなたは実に厳しくわたしを訴え、わたしの若い日の咎をわたしに嗣がせられる。

わたしに足枷をはめ、わたしのすべての道を見張り、わたしの足の裏にしるしをつけられる。

このようにされれば、誰でも染みに食われた衣のようになり、朽ち果てるほかありません。






智慧はどこで見出され、さとりのある場所はどこなのか。

げに銀にはその通り出されるところがあり、金が精錬される場所もある。

鉄は地から取り出され、銅は石から溶かされる。

人は暗闇を追いはらい、隅々までもきわめつくす。

暗きと闇の石を、彼は人里離れた所で竪穴を穿ち人跡絶えた所で、独り宙にぶら下がる。

そこから食物が獲られる地、その地の深い所は火で覆えされる。

地の石はサファイアのある所、その中には金の粒が含まれている。


智慧はどこで見出され、悟りのある場所はどこなのか。

一つの道、それは猛鳥も知らず、禿鷹の眼もとどかぬ所、誇り高き獣もそこを歩まず、獅子の子もそこを過らない。

だが人は岩地に手をのばし、山々を根元から覆す。

人は岩に横穴を掘り、その眼はすべての宝石を見る。

水脈の漏れるところをふさぎ、隠れた宝を光にあてる。


智慧はどこで見出され、悟りのある場所はどこなのか。

人はそこに行く道を知らず、生ける者の地で見出すことはできない。

淵は言う、「それはわたしの中にはない」と。

海も言う、「それはわたしとともにない」と。

それを獲るための純金はなく、その値となる銀を量ることもできない。

オフィルの金もその支払いに足りず、貴紅玉髄もサファイアも足りない。

金も瑪瑙もその値に足りず、純金の器もその代価とならない。

珊瑚も水晶も言うに足らず、一袋の智慧は一つなぎの真珠にまさる。

クシのトパーズもその値に足りず、混じりなき金もその支払いに足りない。


智慧はどこで見出され、悟りのある場所はどこなのか。

それはすべての生ける者の眼に隠され、天の鳥からも隠れている。

奈落の底も死も言う、「われらは耳でその噂を聞いただけだ」と。

神はその道を知り、彼こそそのありかを知る。

げに彼は地の境までも見、すべての天の下はその視野におかれる。

風にその重さを与え、水を秤で量られる。

彼が雨のために法則をもうけ、雷雨のために道をそなえた時、彼は智慧を見て、それを教え、それを立て、それをきわめた。

それから人に言われた、

「見よ、主を畏れることは智慧であり、悪を避けることは悟りである」と。





わたしがあなたに向かって叫んでもあなたは答えず、立ち上がってもあなたはそっぽを向いておられる。

あなたはわたしにつれなき者となり、あなたの強いみ手をもってわたしを攻められる。

あなたもわたしを引き上げて風に乗らせ、暴風をもってわたしを翻弄させる。

げにわたしは知る、あなたはわたしを死なせ、すべての生者の集められる所へ帰らせたもうたことを。


溺れようとする者は手をさしのべないだろうか、没落しようとする者は叫ばないだろうか。

わたしは苦しい日を送る者のために泣かなかったか、わが魂は貧しい者のために悲しまなかったか。

わたしはよき事を望んでいたのに悪しきことが臨み、光を待っていたのに暗闇がやって来た。

わが腸は煮えくりかえって静まらず、わが悩みの日々がわたしに臨んだ。

わたしは慰めを得ず、悲しみつつ歩き、公会の中に立って助けを叫び求める。

わたしは山犬の兄弟となり、駝鳥の友となった。

わが皮は黒くなってはげ落ち、わが骨は熱さによって焼け、わが琴は悲しみに変わり、わが笛は嘆きの音となった。





ああ、わたしのいうことを聞いてください。

見よ、わたしはここに署名する、全能者よ、答えてください。

わたしと争う者が書いた告訴状を。

わたしはそれをわが肩に担い、冠のようにして頭に結び付けよう。

わたしの歩みの一歩一歩を彼に示し、君主のように彼と対決しよう。








わたしにはわかりました、あなたは何事もおできになる方、どんな策をも実行できる方であることが。


『無知をもって計画を暗くするこの者は誰か』


それなのにわたしはわかりもしないこと、知りもしない不思議について、語ったことになります。


『聞け、わたしは語ろう、おまえに尋ねよう、わたしに答えよ』


わたしはあなたのことを耳で聞いていましたが、今やわたしの眼があなたを見たのです。

それ故わたしは自分を否定し、塵灰の中で悔改めます。







  われわれはあなたから幸いをも受けるのだから、



               災いをも受けるべきではないか!!