< 自然のつづれ織り >



〜 動物の生態 〜








 ここに、ひとつの森を思いうかべてみよう。 森には多くの植物があり、それらは季節が移りかわるにつれて芽をふき葉をしげらせ、花を咲かせ実をつけ、あるものは葉を落とす。 また多くの動物がさまざまな季節に、そしてさまざまな場所で生活している。 植物性の昆虫類の分布は、それぞれの餌となる植物の分布に依存しており、またその生息密度は、同じ植物の種でも株あるいは木の一本一本ごとに高かったり低かったりする。 一本の木をとってみても、葉をかじるチョウやガやハムシやハバチの幼虫、また葉に潜りこんで食うハモグリガもいる。 木材を食うカミキリの幼虫、枝や葉から樹液を吸うアブラムシやアワフキやカメムシやセミ、流れ出た樹液に集まるカナブンやカブトムシやタテハチョウやハエ、ときにはスズメバチが巣材集めに飛来する。 さまざまな季節に咲く花には、花粉や蜜に来るハナアブやハナバチ、さらには種子や実をついばむ鳥たち・・・このように多彩なかたちで植物への依存が見られる。 そして、こうした昆虫類などを食う鳥やトカゲやネズミ類、またアリやクモやカリバチやムシヒキアブなどの捕食者が、あるものは独特な場所をねらい、あるものは広範囲を探しまわりながら餌をとる。 森林の地表の落葉や土壌中にはトビムシやササラダニがおり、ネズミ類や多くの昆虫の巣穴もある。 倒木や朽ち木、動物の糞や死骸があれば、そこにはまた別の動物がやって来て、独特の食う食われるの関係が生まれる。 これは、長い期間比較的安定しているものもあれば、ほんの一時的なものもあり、それらは時間的にも空間的にも、モザイク状に入り組んで互いに散在している。


 食ったり食われたりだけではない。 そこは、休息したりねぐらに利用したり隠れ場所や越冬場所に使ったり、また配偶者をみつけ、巣を作る場所であったりもする。 それぞれの生活要求に応じて、いろいろなあるいは同一の場所がさまざまに使われている。 そして、こうした生活のさまざまな側面を含みながら、そこに数多くの動物間の相互関係が生じているのである。


 このようなことは、もちろん森林に限らない。 草原では、河川では、池沼では、あるいは海の中では、どのような季節にどのような動物が、どのような場所を、どのように利用し、そこでそれらは互いにどのように関係しあい、その結果生活をどのように変化させながら生きているのであろうか。


 何億年ものあいだ、その時代時代のさまざまな動物たちの生活の相互作用によって、新しい生きかたがつぎつぎに生まれてきた。 その関係の網の目は、地球の表面の広い空間に織り込まれ続けている大きなタピストリー(つづれ織り)である。




〜 科学の事典より 〜