< 一茶と仏教 >




山寺や 雪の底なる 鐘の声


剃捨てて 花見の真似や ひのき笠


通し給へ 蚊蠅の如き 僧一人


塔ばかり 見へて東寺は 夏木立


君が世や 茂りの下の 耶蘇仏


天広く 地ひろく秋も ゆく秋ぞ


義仲寺へ いそぎ候 はつしぐれ


我もけさ 清僧の部也 梅の花


ほたるよぶ よこ顏よぎる ほたる哉


元旦に かわいや遍路 門に立


汗拭いて 墓に物がたる わかれ哉


生き残る 我にかかるや 草の露


野辺の梅 かじけ仏の ましまし衍ける


初雪や ふはふはかかる 小鬢哉


俳諧の 地獄はそこか 閑古鳥


通り抜け ゆるす寺也 春のてふ(蝶)


こつこつと 人行き過ぎて 花のちる


僧正が 野糞遊ばす 日傘哉


雪汁の かかる地びたに 和尚顏


蝶とぶや 夕飯過ぎの 寺参り


年よりや 月を見るにも ナムアミダ


夜の雪 だまって通る 人もあり


寺山や 春の月夜の 連歌道


陽炎や 寝たい程寝し 昼の鐘


蠅打ちて けふも聞く也 山の鐘


白露に 気の付く年と 成りにけり


鐘氷る 山をうしろに 寝たりけり


もろもろの 愚者も月見る 十夜哉


ヨロ法師 梅を淋しく したりけり


山寺や 雪隠も雉の 啼き所


いざさらば 死稽古せん 花の陰


花桶に 蝶も聞くかよ 一大事


蠅打ちに 敲かれ給う 仏哉


秋風や 仏に近き 年の程


ただ頼め 花ははらはら あの通り


蝶とぶや この世に望み ないように


身の上の 鐘としりつつ 夕涼み


蝶とんで 我が身も塵の たぐい哉


鳴く雲雀 水の心も すみきりぬ


ちる花や 已におのれも 下り坂


花さくや 欲の浮世の 片隅に


春の日の つるつる辷る 樒かな


斯う活きて 居るも不思議ぞ 花の陰


汚れ坊 花の表に 立てりけり


花ちるや 権現様の 御膝元


下総の 四国巡りや 閑古鳥


斯う居るも 皆骸骨ぞ 夕涼み


露の世の 露の中にて 喧嘩哉


秋風の 吹き行く多田の 薬師哉


白露に まぎれ込だる 我家哉


散る木の葉 渡世念仏 通りけり


蓬莱に 南無南無という 童哉


春風や 牛に引かれて 善光寺


如意輪も 目覚まし給え 時鳥


葛飾や 南無二十日月 草の花


名月や 高観音の 御ひざ元


石仏 誰が持たせし 草の花


大寺や 片々戸ざす 夕紅葉


門口へ 来て氷る也 三井の鐘


落葉して 仏法流布の 在所哉


何として 忘れましょうぞ 枯れ芒


初雪や とても作らば 立砂仏


咲く花の 中にうごめく 衆生哉


かすむ日や さぞ天人の 御退屈


なの花に 上総念仏 けいこ哉


木母寺の 鉦のまねして なく水鶏


なでしこや 片陰できし 夕薬師


念仏に 拍子のつきし 一葉哉


そば時や 月のしなのの 善光寺


露はらり はらりはらりの うき世哉


夕月や 御煤の過ぎし 善光寺


木母寺の 花を敷寝の 蛙哉


山寺や 翌そる稚児の いかのぼり


寺山や 袂の下を 蝉のとぶ


川がりや 地蔵のひざの 小脇差


露ちるや むさいこの世に 用なしと


名月や 寝ながらおがむ 体たらく


朝露に 浄土参りの けいこ哉


人のため しぐれておはす 仏哉


親に似た 御顏見出して 秋の暮(五百仏)


長き夜や 心の鬼が 身を責める


御地蔵と 日向ぼっこして 鳴ち鳥


我郷の 鐘や聞く也 雪の底


ふとんきて 達磨もどきに 坐りけり


御ヒザに 雀鳴く也 雪仏


浴びるとも あなたの煤ぞ 善光寺


ぼた餅や 地蔵のひざも 春の風


正月や 辻の仏も 赤頭巾


しがらきや 大僧正も 茶つみ唄


蠅一つ 打ってはなむあみ だ仏哉


時鳥 雇い菩薩の 練り出しぬ


おれが坐も どこぞにたのむ 仏達


木母寺は 反吐だらけ也 今日の月


大仏の 鼻から出たり けさの霧


妙法の 火に点をうつ 烏哉


黒門や かざり手桶の 初時雨


霜がれの それも鼻かけ 地蔵哉


木母寺 雪隠からも 千鳥哉


相伴に 鳩も並ぶや 大師粥


御仏の 御鼻の先へ つらら哉


浮け海鼠 仏法流布の 世なるぞよ


涅槃像 銭見ておわす 顔も有り


しんしんと 親鸞松の 春の雨


御地蔵の 手に据え給う 蛙かな


小坊主や 袂の中の 蝉の声


夕月や 涼みがてらの 墓参り


時鳥 ネブツチヨ仏 ゆり起せ


楽剃りや 夕顔棚の 下住居


大寺や 主なし火鉢 わんわんと


御仏の 代わりにおぶさる 蜻蛉哉


開帳に 逢うや雀も 親子連れ


祝い日や 白い僧達 白い蝶


花ちるや とある木陰も 開帳仏


花御堂 月も上らせ 給いけり


涼しさや 弥陀同躰の あぐら哉


小うるさい 花が咲くとて 寝釈迦像


陽炎や 手に下駄はいて 善光寺


長の日に かわく間もなし 誕生仏


御仏や 寝てござっても 花と銭


法の世や 蛇もそっくり 捨て衣


とべよ蚤 同じ事なら 蓮の上


啄木鳥も やめて聞くかよ 夕木魚


虫の尻を 指して笑い 仏哉


一念仏 申す程して 芒哉


膝抱いて 羅漢顏して 秋の暮


榾の火に せなか向けり 最明寺


影法師 恥じよ夜長の むだ歩き


灌仏の 御指の先や 暮の月


浜風に 色の黒さよ 誕生仏


つり鐘の 中よりわんと 出る蚊哉


朝顏の 上から取るや 金山寺


桑の木は 坊主にされて 閑古鳥


梅さくや 手垢に光る なで仏


山寺や 破風口からも 霧の立つ


慈悲すれば 糞をする也 雀の子


僧になる 子のうつくしや けしの花


旅の皺 御覧候へ 芭蕉仏


山寺は 碁の秋里は 麦の秋


御仏や 生るるまねに 銭が降る


華の世を 見すまして死ぬ 仏かな


辻堂や 掛けっ放しの 涅槃像


青菰の 上に並ぶや 盆仏


御仏は さびしき盆と おぼすらん


名月や 仏のように 膝をくみ


ぽっくりと 死ぬが上手な 仏哉